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前期教養クラスの女子学生をひとつの(または少数の)クラスにまとめる案について

先日、「前期教養クラスの女子学生をひとつの(または少数の)クラスにまとめるべき」という趣旨のツイートをしました。反響は大きかったですが、同時に東大のクラス分けや語学選択等の背景を知らない人からの的はずれな指摘も目立ちました。私は理科一類から理学部情報科学科に進学し、この春に卒業した東大の卒業生であるため、私と身の回りの経験から「前期教養クラスの女子学生をひとつの(または少数の)クラスにまとめる案」について説明します。

背景

東京大学では全ての1,2年生は駒場キャンパスで前期課程の教養学部に属し、3,4年生のほとんどは本郷キャンパスで後期課程(工学部建築学科、文学部英文科などの専攻)に属します。1,2年生は東大を受験する際に理科一類、文科二類などの「科類」に出願します。科類という制度は他大の方にとっては分かりにくいと思うのですが、すごく簡単に要約すると学科のようなものだと思ってもらえればいいと思います。2年生から3年生で専門を選ぶ過程において「進学振り分け」と呼ばれる選考プロセスがあり、前期課程で取った点数の順位によって自分の希望した学科に行けるかどうかが決まります。その際、理科一類は工学部や理学部に行きやすく、文科一類からは法学部に行きやすいなどの特徴があります。

東大に合格すると第二外国語をスペイン語、中国語、ドイツ語、ロシア語などの中から選択でき、科類と選択した語学によって「クラス」が分かれます。一例ですが、私の代ではたしか理科一類でスペイン語選択のクラスは理一9組から理一16組までありました。クラス単位で必修の授業を履修するため、クラスは1,2年の間はそれなりに大きな存在感を放ちます。入学後すぐにクラスごとに「オリエンテーション合宿」という、クラスメイト同士が仲良くなりつつ「上クラ」と呼ばれる一つ上の学年の先輩たちから大学生活の情報をもらえるイベントがあったり、1年の時の五月祭はほとんどのクラスがクラス単位で出店を出します。前述の通り点数によって希望する学科に行けるかどうかが変わる進学振り分けという制度があるため、試験前にはクラス内で「試験対策プリント*1」が共有されたりするなど、他の大学と比べてもクラスの存在感は大きいと思います。

このように大学生活のQOLを大いに左右するクラスの男女比がどういう風に決められているかというと、大体以下のように決まるというのが東大内でのコンセンサスだと思います*2

  • 理科一類のスペイン語選択に女子学生が24人合格し、理一スペ語のクラスは9組あってそれぞれの定員が43名であるとします。
  • まず、女子学生が一人のクラスにならないようにします*3
  • その上で、9組あるクラス全てに女子学生が同じ数だけ所属するように分配します。この場合だと、9組のクラスに24人の女子学生を出来るだけクラス間の人数の差がないように分配するので、女子学生が2人のクラスが3つ、3人のクラスが6つ出来ることになります。

このように女子学生を全てのクラスに分配した結果、男女比が9:1という大きな偏りがある理科一類ではスペイン語選択全体では女子学生が24人いるにも関わらず、男子学生の数が圧倒的に多く、また上述した「女子学生を全てのクラスに同数に分配する」という方式のせいでクラスに平均して2,3人しか女子学生がいないという現象が発生しています。

何が問題なの?

では、クラスに2,3人しか女子学生がいないことの何が問題なのでしょうか。これは大きく分けて2つの問題があると考えます。

  • 女子学生のwell-beingの低下
  • それによる東京大学への女子学生の志願者の減少

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「女子学生のwell-beingの低下」については上記の記事に実態がよく書かれていると思います。実際、私の知り合いの東大女子にはクラスの男女比に不満を言っている人がほとんどな一方、「クラスの男女比が偏っててよかった!」と言ってる人は一人もいません。また、理科一類に出願したかったけど、クラスに女子があまりにも少ないから理科二類に出願したという学生の話は同期でも後輩でも複数耳にします。加えて、私は月に一回程度、東大では女子が生きづらいと聞くので志望を他の大学に変えることを考えているという趣旨の相談を女子高校生から受けます*4。女子高校生が「生きづらそうだから」という理由で東大受験を諦めるなどということはあってはならないと思います。このような相談を受けながら、東大の男女比率の偏りによる女子学生のwell-beingの低下、東大の女子学生が後輩に不愉快な思いをした現実を伝える、という流れで東大を志望する女子高校生にもネガティブな影響を与えていると肌感覚として感じます。いつかアンケート等を行い在学生の正確なデータを集めようと考えていますが、今のところはこの点は経験則です。

「東京大学への女子学生の志願者の減少」は大学にとって逼迫した問題です。東大の大学ランキングが下がり続けている一因にあまりにも偏った男女比率があります。東大はこの問題を是正するために女子寮を作る、女子学生を謝礼付きで母校訪問に向かわせるなどの対策を取っていますが、毎年の合格者の男女比を見る限り全く効果が出ていないと言わざるを得ません。女子学生にとって不愉快でなく、居心地の良い空間を大学に作ることは女子学生の志願者を少しでも増やしたい大学にとってもメリットがある目標です。

前期教養クラスの女子学生をひとつの(または少数の)クラスにまとめる案

私は上記の問題はひとつの非常にシンプルかつ低コストの方法で改善に向かうのではないかなと思っています。私が提案したい「前期教養クラスの女子学生をひとつの(または少数の)クラスにまとめる案」は、背景で説明した現状の女子学生分配方式の代わりに、以下の分配方式を採用することです。

  • 理科一類のスペイン語選択に女子学生が24人合格し、理一スペ語のクラスは9組あってそれぞれの定員が43名であるとします。
  • (案1) 女子学生を1つのクラスにまとめ、「女子学生が24人と男子学生が19人いるクラスが1つ」と「男子学生が43人いるクラスが8つ」になるようにする。
  • (案2) または、女子学生を2つのクラスに分配し、「女子学生が12人と男子学生が31人いるクラスが2つ」と「男子学生が43人クラスが7つ」になるようにする。

(案1)と(案2)ではどちらも女子学生がクラスに10人以上いることになり、女子学生にとってより過ごしやすい環境になると考えられます。

よくある質問

作為的にクラス内の女子学生の人数を操作するのは不公平ではないのか?

まず分かって欲しいのが、現状でも作為的に女子学生の人数を操作しています。前述した通り、「女子学生がクラスに一人にならないように」「全てのクラスに均等に女子学生がいるように」クラス分けの時点で調節されています。現状行われている「女子学生がクラスに一人にならないように」という調整は女子学生に対する配慮だと思います。しかし、「全てのクラスに均等に女子学生がいるように」調節することは女子学生にとってメリットなのでしょうか?私はこの点を問題視しています。いっそ、性別関係なく完全ランダムなクラス分けを行うと東大が宣言するのならそれもまあ(良くはないと思いますが)一つの選択肢だと思います。

男子学生のみのクラスになってしまう可能性もあるのは男子学生にとって不公平ではないのか?

それは「女子学生のwell-being」やそれに伴う「東京大学の女子学生にとっての魅力低下」を犠牲にしてまで達成するべき公平さなのでしょうか。真に公平を求めるなら女子学生を意図的に分配するのではなく、性別関係なく完全ランダムにクラス分けをするべきだと思います。また、現状の「全てのクラスに均等に女子学生がいるように」調節するシステムは、男子学生にとってメリットがあり、女子学生にとってメリットがない不公平なシステムなのではないでしょうか。

さいごに

私がいままでずっと問題だと思ってきた東京大学前期課程の「全てのクラスに均等に女子学生がいるように」調節するシステムについて、私が思う解決策を書きました。東大の在学生はもちろん卒業生もこの問題が他人事とは思わず、(私の考えに同意する必要はありませんが)何かしらの自分なりの主張を持つべきだと思っています。このブログやツイッターがきっかけになり、もっと盛んに議論が起こることを期待しています。

*1:通称シケプリ

*2:大学側が正式に公表している訳ではなく、あくまで歴代の生徒の経験則です

*3:今まで同じ科類と語学に他に女子学生がいるのにも関わらず女子一人のクラスになったというのは聞いたことありませんが、事例を知っている方がいれば教えて下さい

*4:このような相談を受ける度に、私は東大が女子学生に魅力を感じてもらうために行っているイベントや家賃補助制度、東大女子入部禁止のテニサーの学内施設利用禁止措置などを挙げながら「東大も良い方向に向かっているからそこまで心配することはない、勉強をする環境としてはとても良いところだよ」と励ましています。良い方向に向かっていると信じたいものです。